入院とか、自分に関係ないと思ってた 9(完結編)

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再び入院前夜

前回入院中に発症した腹部の疾患を手術にて改善するために再び明日病院へ。

心臓の状態を鑑み、2ヶ月間待機することを通告されていた。

生殺しとはこのことか、と思う。

正直、逃げたい。

退院後、徐々に回復してきているのは実感していたが、決して万全とは言えぬコンディションであることは自覚していたので、腹かっさばくとか、本当にやって大丈夫なのか?との不安がぬぐえない。

ちなみに開腹手術は生まれて初めてである。

「妊婦さんとか、状況によっては帝王切開したりするんだよ?ちょっとお腹切るぐらいたいしたことないよ!」

知人の女性はそう宣わったが、俺は妊婦じゃねえし、しかも病人だし(せっかくの慰めが全然通じてない)。

なんとか回避できぬものかとあれこれ知恵を絞るが、一向に良いアイディアが浮かんでこない。

というか、浮かぶわけがない。

今回は3日で退院できるという話だったので、大した準備はしてないが、特に何も準備しなくていいのが逆に時間を持て余す。

手術中に不測の事態が発生して、そのまま意識なくなったらどうしよう・・・とか、ろくでもないことばかり考える。

手術を受けるにあたっての許諾書を病院に提出しなくてはならないんだが、しっかり読めば読むほど怖いことしか書いてない。

怖すぎて最悪を想定することができない。

最悪は死んじゃう、ってことやん、これ、と恐れおののく。

結局、医師との信頼関係にいきつくんだろうなあ、と思うが、残念ながら私と外科医の間で信頼とか信用といった感情は存在しない。

だって、2回しか会ってねえもの。

時間にして合計1時間にも満たんよ。

小心者だなあ、と自分でも思うが、切るならせめて手足とか、背中からちょっとだけとか、変更できませんか、と。

うん、できるわけないね。

結局、腹、ってのが怖いんだろうな。

ガンガン整形する人とか信じられん。

再び1日目

病院の入院受付に向かうだけで吐き気がする。

もちろん怖さもあるが、前回の60日強に及ぶ入院生活が余程苦痛だったのだろうと思われる。

匂いも、建物の質感も、行き交う関係者の姿も、なにもかもが嫌悪の対象。

頭おかしくなる、頭おかしくなる、とぶつぶつつぶやきながら無理矢理前へ前へ。

入院に際してのコロナ検査が思った以上に手間どった事もあり、病室に着くなり「手術まであと1時間です」と告げられる。

生殺し。

もう、すぐにやってくれていいから、ほんとマジで。

「手術までに髭を剃って、爪を切って、歯を磨いておいてください」

髭は前日に剃ってたんで、とりあえず爪を切り始めるが、なんで?

あえて聞かなかったので理由はわからない。

手術中に万が一死んじゃった場合、見苦しくないようにってこと?

わからん。

ベッドに寝たまま階上の手術室へと運ばれる。

「事前にお話しましたけど、服用されてるお薬の関係で半身麻酔ができないんで、局所麻酔で手術しますから」

麻酔注射を何本か患部に打たれて、しばらく待機。

「じゃあ、始めますね」

ぬうっ、となにか熱いものが腹の中に入ってくる感覚がある。

枕元の看護師が「痛くないですか?」。

「あ、今のところ大丈夫で・・・いったーあ!!!!!!!!!

突然激痛。

思わずエビのように背中がそる。

「動かないで!」

「麻酔、追加して!」

再びしばしの待機。

「はい、再開しますね」

あーなんかぐちゃぐちゃされてる、あー気持ち悪い、なんかこねくりまわしてない?いや、ひっぱらないで、ひっぱらないで、ひっぱるとこじゃねえから、そこ、あ、いま、誰かが俺の一物を邪魔そうに右側へ押しのけた、なんかまた切ってない?7センチほどって言ってなかった?20センチぐらい切ってない?いったああああああ!!!!!!

「痛い痛い痛い痛い痛い!」

「麻酔追加して!」

またもや待機。

「少し麻酔が効きにくい体質なのかも知れません」と、看護師。

いや、効きにくいって・・・。

事前にわからんの?そういうこと?

「あ、痛っ・・・痛っ・・・・・いや、大丈夫です・・・おうっ・・・・痛たたたた」

「ちょっとここから痛いです、少し辛抱して」

いや、もう大概辛抱してるつもりなんだが。

痛あああああああああああああああ!!!!!$&#!!!!!!””`」

「頑張って!」

暴れそうになる私の両肩をすごい力で押さえつける看護師。

こ、殺される。

というか、死ぬ。

痛すぎて奥歯がバキバキ鳴る(だから歯を磨いておけ、ってこと?)

生涯トップクラスの激痛から開放されたのは、およそ2時間後のことであった。

「お疲れ様でした、うまくいきました。痛くしてごめんなさいね」

いや、謝られてもね・・・・純粋に痛みで泣くんじゃないか、と思ったからね、俺。

その後、3時間の安静。

朝から絶食しているので腹が空いて仕方がない。

仕方ないので、水筒のお茶をガブガブ飲む。

なんで病院に来るといつも俺は空腹に悩まされるんだ。

「今日は、御飯食べられませんからね、明日の朝まで絶食です」

「へ?」

聞いてないから。

腹減りすぎて胃が痛いんだけど、どうするのこれ(どうにもならない)。

徐々に痛みがぶり返してくる。

空腹も相まって、案の定寝れない。

再び2日目

寝不足と疲労でふらふらしながらも、歩こうと思えば、なんとか歩けるのがすごいな、と感心する。

おかげで漏らさなくて済む。

「着替えと消耗品、ここにまとめておいておきますから。不自由があったら呼んでくださいね」

以前入院していた内科に比べてやたらと看護師が親切で行き届いてる。

なんで外科と内科でここまで違うの?と軽く驚く。

鈍い痛みがずっと続く。

横になるのに10分以上かかる。

腹に少しでも力を入れると激痛が走るからだ。

内科の主治医が突然やってくる。

「来週、骨髄検査するからね」

いや、あなたはきっと職務に忠実なんだろう、それはわかる、わかるが鬼か、と思った。

俺の肉体は「血液の俺」と「腹の俺」みたいな感じで別人格なわけではないからね。

また痛いのかよ、と心底滅入る。

先にこの痛みをなんとかしてくれよ、とほとほと思う。

再び3日目

片側の横っ腹、片側の太もも、陰嚢及び下腹部がパンパンに腫れる。

陰嚢なんて腫れたことないからめちゃくちゃ焦る。

主に痛みは患部を中心にして放射状に広がっているが、腫れている部分も圧をかけると痛い。

「今日退院ですんで、お会計お願いします」

「いや、あのちょっと先生に相談したいことが・・・」

「あ、このあと多分来られますよ」

仮に退院が延期になったりしたら憂鬱だが、この状態で自宅に帰るのも不安だ。

「どうですか、変わりないですか?」

「あの、手術した箇所の周辺が・・・」

「あー腫れてますね。つながってますからね。そういうこともあります」

以上。

つながる?

何が?

電車に揺られながら、帰ってもいいの?と本当に?と少し悩んだ。

狸の置物並みに金玉肥大してるよ、俺?

その後、腫れがおさまって、痛みがあまり気にならなくなるまでおよそ1ヶ月を必要とする。

もういやだ、病院とか入院とかもう本当に勘弁、としみじみ思う今日此の頃だが、今のところ通院しなくて済むようにはならないっぽい。

上手に付き合っていくしかないんだろうな、と思う。

綱渡りもプロはだしな腕前になれば見世物になる、とでも思って生きて行くしかないんだろう。

それが不幸だ、ついてない、なんで俺ばっかり、とは不思議に思わない。

なんかギリギリのところでいつもなんとかなるな、と皮肉に笑えてきたりもする。

すげえ額の医療費がふっとんでいきはしたが。

とりあえず備えは大事だ。

それが今回の学びかな。

いや、それだけかよ。

終わり

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